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Future for Road Star

NB8 ロードスター 板金塗装

Model: Mazda Road Star MX-5 Miata

 

 

  はじめに

 当サイトは特定の修理工場を推薦するものではありません。

当サイトの運営者である私は修理職人を退職し、現在はどこの修理工場にも属しておりません。

私がかつて採った手法とその考え方を記し、もし私だったらどうするか、を論じているものであり、

他の手法、考え方を否定しているものではありません。

実際の作業依頼等にあたっては、読者各自の判断、自己責任で行ってください。

当サイトは如何なる損害についてもその責を負う立場にありませんことをご了承のうえご参照ください。

なお、NBロードスターの構造とNAロードスターのパネル構成は似ているため、

初期型のNAロードスターのオーナーにも役立てるものになっていると思います。

 

 

 

 

 

 ロードスターの錆やすい場所で致命的な箇所といえば、このサイドアウターシルの下部になるでしょう。

特にリヤフェンダーの下部と重なり合わさる部分。

ホイルハウスも錆やすい箇所ですが、その一番底になる部分。

(ロードスターの場合、正式な部品名はインナーピラーリヤーと呼ぶ)

水分がたまりやすい構造になっており、年月をかけ外側に塗装の剥がれとしてわかるようになってくる。

もうこうなったときには外側のパネルのみならず、むしろ内部で相当進行していることになるものです。

原因は何かといいますと、錆の発生が外側からのダメージ、たとえば飛び石で塗装が欠けたり、

縁石などに突き上げたりして凹ませ、塗装がヒビ割れての発錆ではなく、

サイドシル内部に溜まった湿気が原因となり、ジワジワと月日をかけて錆が広がっていったものと考えられます。

次の写真を見れば、いかに内側が錆びているのかがよくわかることでしょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リヤフェンダーを取り除いたところ。

サイドアウターシルパネルの後ろ側になります。(リヤフェンダーが合わさり被っているところ)

この写真からわかることは、一度錆取りを試みたため錆が酷くは見えないかもしれませんが、

薄っすらと錆びが残っていることです。

「水は低きに流れる」

その結果が見えてくるものでありましょう。

 

 

 

 さきほどのサイドアウターシルを取り除いた奥。

やはりこのパネルも下部が腐食、ここは切り貼り修理するなり、交換するなりしたいところ。

なお、掲載のモデルカーは、発泡ウレタン施工がされていたのですが、

発泡ウレタンを入れていない車体も、その錆びやすいポイントは同じであると思います。

 

 

 

「サイドシルセクション」

今回、交換する部品をすべて取り除いたところ。

ここまで取り外せば、錆取りも十分に行えます。

錆取りの後、防錆塗装を施し、新しいパネルを組み立てていく。

 

 

サイドシルリーンフォースメントを組み、

その上にアウターフロントピラーを載せ、

後ろ側はコーナージャンクションを載せていく。

 

 

 

 複合的に組み合わさっているため、かなり強固な作りとなっていることが見て取れるかと思います。

溶接も上下左右にと四方向に合わさったパネル同士を溶接しています。(三次元複層とわたしは呼んでいます)

そのため、当該部分の組み立て作業及び溶接の難易度は高いものになります。

位置あわせについてもドアの開閉がありますから、とても一発では決められません。

ドアの仮合わせと仮溶接を繰り返しつつ位置決めをしていくことになります。

 

 

 

 この作業においてポイントとなるのは溶接になるでしょう。

ドアの前側。カウルサイドパネルにプラグ溶接用の穴を10数箇所開けてありますが、

ここはスポット溶接の機械が入らないため、プラグ溶接を行うことにしているものです。

そうなると溶接後の仕上がりは、MIG溶接の手法いかんにかかってくるというものになるのですが、

それはつまり、熱を入れすぎるとパネルの強度の低下と錆の発生を招きやすくなるというものです。

したがって、溶接時間の長いガス溶接は、このようなケースには不向きであると考えます。

異なる厚さのパネルを溶接する場合、厚い材に合わせて設定する必要があり、

しかもなるべく短時間で熱入れを済ませ、かつ、しっかりと溶け込ますこと。

それが強度と発錆に対して両立させるための技術となります。

 

 

 

リヤーフェンダーパネルの裏側の防錆処置。

スポット溶接で接合される部分に施してあります。

 

 

 

 順番としては、まずサイドシルアウター、次にカウルサイドパネル、そしてリヤーフェンダーを載せていくという構造。

もちろん、メーカーのラインで組み立てる順番と補修・修理とでは手順が異なることも多々ありますが、

わたしが考える修理のセオリーでいけば、この順番に組んでいくことになります。

したがって、将来的にサイドシルを凹ませたり、錆たりして交換する必要が生じたときには、

リヤーフェンダーとカウルサイドパネルを切り取る必要があることになります。

もうひとつは、部品供給されたサイドシルをすべて使わず、適当な箇所で切り継ぐという方法もあります。

この方法は、ロードスターに限らず、一般的な修理方法でよくあることです。

たとえば、このケースでいうと、カウルサイドと重なり合う手前と、

リヤフェンダーと重なり合う手前で切り継ぐというものになります。

これで済むならば、部品はサイドシルアウターのみで済み、予算はかなり抑えられるでしょう。

しかし、このロードスターの場合には、内部のアウターフロントピラーと

コーナージャンクションの面積が大きいので中間で使える部分はかなり少ない。

そうなると、将来の錆の発生や、突き上げて凹ませたりの損傷に備えるという意味においては、

やはり時短を狙わずセオリーどおりに切り取り、また同じように組んでいくのがいいことになるでしょう。

 

 

 

 プラグ溶接の仕方によって、その後のパネルの綺麗さ加減が変わるものです。

パテは入りますが、どれだけ薄く仕上げられるかが大事。

そのためには、溶接跡の巣穴を少なく、出来るならば無いに近く。

また、溶接後の面形状を滑らかにすることも必要な技術になります。

巣穴をパテで埋めて滑らかにするというのは、あまりよろしくないと考えています。

埋めきれずに巣穴に残ったわずかな空気が将来的な錆の発生を生じさせる可能性があるからです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レインレール、コーナープレートガゼットとの接合部分

このあたりはスポット溶接で対応可能。

 

 

 

 

 リヤーデッキパネルも交換していることに注目してください。

リヤーフェンダーの上にデッキパネルが重なっているため、こちらもセオリーどおりにリヤーデッキを外し、

そしてリヤフェンダーを交換したのち、新しいリヤーデッキパネルを載せて溶接していく。

リヤーデッキパネルを交換しないで、リヤフェンダーのみを交換、抜き出すことも出来なくはありません。

しかし、抜き出すためにパネルに手を入れるわけですから、できるならば交換しておきたいと考えます。

なぜならば、そのほうが自然で綺麗に仕上がるからです。

自然というのは、無理のないことを言います。

パネルを曲げたり熱を入れて板金したり、溶接するということは、パネルにストレスがかかっているということになります。

オリジナルの状態からどれだけストレスを減らして作業することができるか。

ノーストレスとはならないものですが、でもなるべくストレスを減らしていく方法を採る。

それが部品供給のあるクルマについては基本となってくるものとわたしは考えています。

 少し余談となりますが、時短と予算の都合からか、もしくは昔ながらの手法ということにもなるのでしょうが、

高張力鋼板のフレームをガスの火で炙ったりして曲げ板金をしたりするケースもたまに見受けられますが、

これはメーカー設計の剛性強度を低減させるものです。

修理完成してしまえば、外観からはわからなくなってしまうものですが、

メーカー設計本来の安全性能を発揮できていない状態で走行していることにもなるかと思います。

したがいまして私は、交換に伴うストレスと交換しないで再使用の為の修理をするのと、どちらがストレスがかかるか。

そういった観点でもって判断することを重視してきたものです。

 

 

 

 

 

 

 フロントフェンダーを外したところ。

カウルトップのサイドは防錆においては外せないポイント。

ロードスターはワイパーが格納されているところ、カウルパネルに水分が溜まりやすい構造と思います。

そのため、ゴミなどの詰まりの清掃と、パネルの合わせ目に防錆剤を塗布しておくことも、

有効な対処のひとつとしてお勧めしておきます。

 

 

 

 

 セルフケアを実践しようとされている方への注意としてひとつ申し添えましょう。

フロントフェンダーのボルトを外すと、ボルト頭の塗装が欠けたり傷ついたりします。

それが最悪の場合、買取査定の際にフェンダー交換歴あり、もしくは事故歴ありなどと査定される可能性も

なきにしもあらずですから、どうか自己責任で対処されてください。

その為の次善の策としては、フェンダーライナー(カバー)を外した隙間から

防錆スプレー等を吹き付けるというのも有効な手立てであるでしょう。

 

 

 

Under body, Prevention of rust.

 

 リヤホイールハウス内のゴム製のフタを取って防錆剤を注入しておくこともお忘れなく。

なるべく浸透性の高いものを使い、ロードスターならではの複雑なパネル構成の隅々まで行き渡らせるイメージで。

 

 

 

Future for Road Star

〜 ロードスターを長く乗り続けようと考えている方へ 〜

 

既に部品供給の打ち切りもあると聞いています。

もし、ストックしておくとしたら何を優先すべきか。

ボディ骨格関係では、以下のものを持っておくと将来的に安心かと思います。

(ストックパーツ優先度順)

・リヤフェンダー

・サイドシルパネル

・カウルサイドパネル

・リヤーエンドパネル

・リヤーデッキパネル

・インナーピラーリヤー

・ロアーパネル

・リヤフェンダーガゼット

・コーナープレート

(NA型ではリヤランプハウジングに相当)

・リヤーレインレール

 

融雪剤地域車・発泡ウレタン施工車は以下も追加

(モデル事例のようなサイドシル内の錆修理が必要な場合)

・サイドシル リーンフォースメント

・エンドプレート(NA型ではシールプレートに相当)

・コーナージャンクション

・ストライカーリーンフォスメント

・ヒンジリーンフォースメント

(NA型ではアウターフロントピラーに相当)

・ロアーパネル

(NA型ではロアーリヤフェンダーに相当)

 

 

 その他に細かなところでは、リヤバンパー取り付用グロメットやクリップ類

フロントガラスとモールも将来的にレストアの計画があるならば必須といっていいでしょう。

足回り、前後バンパーカバー、フロントフェンダー、フード、トランクパネルは、勿論あるに越したことはありませんが、

製造打ち切りの順番としては、たぶん最後の方になると思われますので余裕があればコツコツと。

また、カーボンパーツやFRPなどのアフターパーツもリリースされていますから、

オリジナルにこだわらなければ、外装品は無理してストックせずともいいのかもしれません。

いけるところまでは純正オリジナルで維持し、ダメになったら社外品にシフトしていくというスタンスもありでしょう。

ボディ骨格のマイナーパーツ、一般的に交換しないパーツから製造打ち切られていく傾向があります。

 なぜリヤ廻りの部品が中心なのか?といいますと、フロントよりも錆やすいということがひとつ。

それと万一のクラッシュのときの復元のためにです。

たとえば、リヤ廻りをスピンなどでヒットしたり、追突されたりした場合。

リヤのフレームが曲がることが多いものですが、リヤフェンダーがあるかないかでは作業内容が大きく

変わってくることになります。

もしリヤフェンダーが無かった場合、リヤフェンダーを生かすためにフレームの曲がりを完全に修復できなかったり、

一度切り取って再使用することになるかと思います。

その方法は前述のとおり、パネルにストレスが相当かかります。

フレームの位置修正を優先するならば、リヤフェンダーに大きな歪みを生じさせたりとパネルの張りや形状を

犠牲にしなければならなかったり、クリアランスを妥協したりしなければならなくなるケースもあります。

そのため、リヤフェンダーを交換する前提でフレーム修正を行えればベストでしょう。

推奨ストックパーツに記載しておきましたランプハウジング、ガゼット、レインレールも、錆によるものというより、

クラッシュのときに役立つと考えてリストアップしておきました。

なお、トランクフロアやリヤサイドメンバーは激しい追突、大破レベルの修復をするには必要となってくるでしょう。

中程度であれば、エンドパネル外しての板金というアプローチでも対応可能なケースがよくあります。

あとはご予算でどこまでストックしておくかをご判断ください。

 一方でフロント側はといいますと、フェンダーはボルト止めですから、外してのフレーム修正が容易に出来ます。

フェンダーの損傷は、外せますから板金もしやすい。

フロントはエンジンがありますから、どうしても補記類を外すものが多く大変は大変なのですが、

そこをクリアすれば、フレーム修正自体はリヤよりもやりやすいと思います。

 

 

 まとめますと、錆修理と万一のクラッシュ、その両面からみていかにリヤセクションが重要であるかということと、

将来的なメーカーの部品打ち切りを見据えてレストア計画を立てていくのが望ましい方法ではないかと考えています。

「末永くロードスターを楽しむ、できるならば慣れ親しんだこの個体で」、もしそのように考えているのならば、

この先にどのような状況が訪れようとも可能な限りのベストを尽せるための準備をしていきたい、

そう考えるのが愛好家の願いというものでしょう。

いくら素晴らしいフィールを発揮するエンジンがあったとしても、それを生かせるボディがなければ存分に楽しめません。

ホワイトボディがない以上、次なる最善の策は何か?

いまのボディを生かすために部品供給のあるうちにストックしておくものは何か?

そういった疑問に対して、当サイトにてそのアイデアの一端を示すことができるだろうかと、そう考えて書いてみたものです。

ロードスター愛好家の皆様にとって何かしらのお役立て、また、作業依頼にあたっての具体的事例のひとつ、ベンチマークとして

ご活用いただければサイト運営者として幸いに思う次第であります。   2014 yoshihisa 

 

 

 

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