【 会いたい誰か 】
会いたい誰か。
躍々と思い出されてくる、晴れ晴れとした時の流れ。
マジョラムの香り漂う、海沿いの見晴らしのよい部屋。
ふたりの間を穏やかに流れ合う意識は静寂さをも包みこみ、呼吸と呼吸の押し引きでつながっていた。
初めて知った精神が歓喜する喜びと、意識で通じ合うという心地よさ。
それが愛の一端なのだと、ずっと愛ならざる生き方をしてきた僕に気付かせてくれた。
その実感は日曜日の朝に会うたびごとに積み重なっていき、高鳴る意識は強くなっていった。
しかし、突然消え去るかのように途絶えてしまったのは、運命の悪戯としか思えてならない。
もう会えなくなった今は、海辺の強い陽射しに色褪せていった水色の想い出がかすかに残っているだけだ。
会いたい誰か。
お世話になったからという関係性ではなく。
会いたい誰か。
言いそびれたことがひとつあると。
会いたい誰か。
今は何処で過ごしているのかわからないけれど。
会いたい誰か。
好きだといっていた常夏の海へと渡り、もっともっと陽に焼けているのだろう。
会いたい誰か。
お互いに、名前すら、きちんと伝えていなかったけれど。
会いたい誰か。
初めて会ったときから好きだった。
会いたい誰か。
ありがとう。
そして、さようなら。
yoshi
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