【  わたしらしい毎日 】

 

 あの人が好きだった。

だから結婚した。

とても嬉しかった。

家族も喜んでくれた。

友人から羨望されて気分も良かった。

まさに、夢に描いたとおりの暮らし方のはずだった。

ほんとうは、嫌いじゃないけど、好きでもなかった。

なんとなく気付いていたけど、引き返すことができなかった。

ずっとずっと信じてきたことだったから。

あるべき価値観が壊れてしまうんじゃないかって。

そうなったら、どう生きていったらいいかわからなくて。

これが幸せなんだって、そう思い込ませて。

うれしいっていう顔をずっと作っていたのだった。

 

あの人の職業が好きだった。

立派でカッコよくて、わたしも自信をもって過ごしていられた。

彼の傍に居るのに相応しい、選ばれた自分。

それがわたしを満たし、自分で自分をはじめて認めることができたのだった。

だから、あの人がわたしのすべてだった。

でも、正直に言うと、ちょっと恥ずかしいけど、早い話が、

あの人の職業の背景にある収入が、あの人の魅力のほとんどを占めていた。

だから、あの人のことを、ひとりの人間として、ありのままに見ていなかったし、

わたしもまた、ありのままには見られていなかったのだろう。

 

いま、わたしはとっても自由。

家庭生活から解放され、自由な時間を得たからというよりも、

長い間、自分で自分を縛っていた価値観から解放されたという自由。

かつての豪華さは失くなった。

でも、気持ちは、はじめて豊かになってきているんじゃないかって、そう確かに感じている。

好んで通っていたお店も、付き合っていた友人も変わっていった。

自分にとって、ほんとうに必要なものと、そうでないものとがわかってきたからなのかもしれない。

だいぶシェイプされ、シンプルなライフスタイルで、心も軽やかだ。

 

人間らしく。 わたしらしく。

あたらしい人との出会い。

あたらしく訪ねる場所。

同じ公園を歩いていても、いままで見えてなかった小さくて可愛らしい花。

同じ本を読み返してみても、いままで気にとめていなかった新しいフレーズ。

対等で、尊重し合える友人が数人。

美味しくて栄養のある食事を少し。

値段は高くても、飽きずに長く付き合っていけるものを躊躇わずに買っている。

いままで見えてなかったことが、こんなにたくさんあるんだ、と驚きの毎日。

そんな暮らしがとても楽しい。

いまからが、ようやくスタート。

そんな感じ。

yoshi

 

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