【My Life with GT-R】

 

 

おそらく自分の人生の折り返しを迎えたであろう今において思うことは、

GT-Rが自分の心の支えになってきたということだ・・・・。

競う為に生まれたGT-R、勝ち続けてきたGT-R。

受験から始り、競争社会にずっと身を置いてきた自分自身を、戦うマシン、GT-Rに重ねて見てきたのかもしれない。

どちらが速いのか・・・・。

どちらが優れているのか・・・・。

勝ち負けに拘る性分はだいぶ和らいできたが、無くなったわけではない。

ただ、今は負けを認められる余裕が少しでてきたのだろうか。

譲れないアイデンティティ、プライドがぶつかり合う勝負の世界から一歩引ける自分。

楽しみのひとつとして、たまにはやってみようかと思うくらいの自分に変わってきた。

 

 

かつての自分は、戦い、失うことを恐れる小賢しさを見下していた。

妥協と曖昧さで繕い通すことに反発心を抱いていた。

追求しつづけないことに苛立っていた。

負けを認めない図々しさを、わからせてやりたかった。

しかし、ある日、戦う意識、わからせようとする意識が、

自分の意識の根底にあるうちは逆効果、事態は変わらないと気づいていった。

いかなる正当性の主張も。

無私の善意から提案する意見も。

社会の為の崇高な正義感さえも。

強引にわからせ勝ち得たとしても心からの理解は得られず、

切り無く続く、恨みと仕返しの連鎖を招くことになるのだと。

闘争本能。

勝ち負けを突き詰めるストイックさは、ある意味、生を感じる刺激となる。

勝つか負けるか。

食うか食われるか。

生きるか死ぬか。

命が震え、高揚する。

ただ、それが行き過ぎれば、勝利の代償として失うものは、得るものより遥かに大きい。

 

 

夜の東名高速を独り流す。

厚木インターチェンジから大井松田の下り坂。

日中は雄大な富士山が近くに見えるところだ。

そこからルートを左にとり、全開までアクセルを踏み込み、足柄の山を駈け登る。

大きな左コーナーが立ち向かってくる。

瞬時にギヤをひとつ落とし、長い旋回Gを腰に感じつつ次の加速体勢へ。

長いトンネルのストレートがクリアとなっている今夜、一段ずつリミットまで引っ張り上げていく・・・・。

高回転のRBサウンドは、冷え固まったコンクリの塊を熱し溶かすかのように攻撃的に響かせていた。

高速コーナーの連続が始まる。

フロントタイヤが路面に食いついている感覚をキープ。

かつては急なステアの返しに危うくスピンモードに入りかけたこともある。

それからというもの、力でねじ伏せるようなドライビングをあらためるきっかけとなった。

横から身体に押しつけてくる圧力。

右に左にと振られはするが、進む方向自体は変わらない。

目の前のコーナーだけを見ていると、次に来る逆コーナーで意識の集中が途切れ、

息継ぎをするかのように失速、パワーバンドから外れてしまう。

目先に集中しつつも、常にコース全体を俯瞰するイメージ、

リズムを組み立てて走り抜けることが大事なことだ。

いま、自分がコース上のどこを走っているのか。

どのコーナーをクリアし、次のコーナーはどのくらいの角度なのか。

もしかしたら、トンネル出口には大きな落下物があるかもしれない。

感覚とイメージ。

炸裂するパワーに意識を取られ、スピードに酔っているようでは危ない。

鋭く研ぎ澄ませ、そして、引くという選択も躊躇わず。

今の自分・・・・・ 自分を見つめるということは、GT-Rと共に走ってきたこと。

それと同じことなのかもしれない。

振り返れば今まで、ずいぶんと戦ってきた。

戦う気持ちへと自らを駆り立て、負けてはならないと追い込み、

弱音という本音を吐きたがっている自分に鞭打って生き急いできた。

傍らにはいつも戦友ともいうべきGT-R。

苦しくも充実していた日々、それもまた確かな生であった。

 

 

自分自身を見つめ始めてからのこと。

戦うGT-Rとして使わなくなったのならばと、GT-Rを降りようと思ったこともある。

しかし、考えた末に手放すことはやめにした。

降りると同時に自分の思いも手放す必要があると感じたからだ。

いつか、その日が来るのかもしれないが、少なくとも今はまだ、その段階には至っていない。

心の声が発する語りかけに、これからはじっくりと耳を傾けていきたい。

それがGT-Rとの付き合い方にも通じていくような気がしている。

 

 

ガレージに佇むGT-R。

ダウンライトに映える存在のシルエット。

真に強き者は静かである。

見つめているだけでいい。

触れずとも感じているだけでいい。

聴かずとも思い出すだけでいい。

だけど、いつも心は共にある。

 

 

Speed Groove.

Special Thanks : GT-R Owner Y.

Model : Nissan Skyline GT-R? BNR32

Photo and Story Editor : yoshi

(フィクションにつき本文と車両オーナーさんとは一切関係がありません)

   

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